私たちのブランドLunanoではサージカルステンレスジュエリー「ナノミラー🄬」を発信しています。
ナノミラーとはサージカルステンレスを異種金属が全く入らない方法でジュエリーの形に成形し、さらにナノフラ加工という独自の研磨法で超鏡面仕上げをした新しいコンセプトのジュエリーです。
どのような意味で ”新しいコンセプト” なのかという点については、私たちがサージカルステンレスを使うようになった理由をお伝えすることでご理解いただけると思います。
軽いエッセイ風の記事ですので、気軽な気持ちで読んでいただけましたら幸いです。
はじまりはSUS304の部品研磨
私たちはもともとはガラスを専門に研磨する事業を行っておりました。
ある時、ステンレスの1種であるSUS304の部品を鏡面研磨する依頼をいただきました。それまで金属の研磨はしたことがなかったのですが、技術の幅を広げるためにお引き受けして技術開発を行いました。
金属研磨は、高速で回転するバフ(繊維でできた研磨工具)に研磨したい金属を押し当てて研磨するバフ研磨という方法で行われるのが一般的です。バフ研磨機は、作業テーブルに据え付けられた大きなものと歯科医が使う歯を削る機械と同じような外観の手で持てるサイズのものがあり、磨きたい製品のサイズや部位などで使い分けます。
バフ研磨は、金属の材質や形状を問わず光沢を出しやすい研磨法です。ジュエリーは小さくて複雑な形状をしていることが多いのでこの方法で磨かれていることがほとんどだと思います。
一方で、私たちが行っていたガラス研磨は、平面や曲面など単純な形状を磨くことが多く、磨きたい面と全く同じ形状をした研磨工具を作製してガラスとその工具をすり合わせるという共摺り(ともずり)という方法で行っていました。この方法は、単に光沢を出すだけではなく面の形状精度も非常に高精度に研磨できるという利点があります。
私たちは、バフ研磨ではなくこの手法を応用してSUS304の研磨を行ってみました。ガラスを磨くのと同じ研磨材や工具の材質ではやはりうまく磨けなかったので、それらの材質を変えながらいろいろな組み合わせを試した結果、最終的には満足いく結果を得ることができました。
磨いた部分は直径20mmの平面部分だったのですが、平坦度が0.5μm(500nm)以下・面粗さが5nm以下で非常に高精度に研磨できました。そして驚いたのがその研磨面の美しさです。
周りのものが全く歪みなく映るだけでなく、光を乱反射しないので、光の反射が見える方向からは一般の研磨品とは桁違いの光量で眩しいほどに輝き、逆に光の反射が見えない方向から見ると夜の湖面のようなしっとりとした黒色をしていて吸い込まれるような美しさがありました。
銀白色の発色の美しさとフチまで歪み無く映る鏡面により超フラットな水面を見ているような感覚になり、透明ではないのに透明感を感じさせてくれるのです。
いつもは磨いたら透明になるガラスを研磨していてガラスのクリアな透明感を美しいと感じていましたが、ステンレスの鏡面にはガラスの研磨面とは違う”透明感”の魅力があることに初めて気が付いた瞬間でした。
ある展示会で
その当時、私たちはガラス研磨事業の広報のために、年1回、展示会に出展をしておりました。
毎年展示会に出ていて展示方法がマンネリ化していたので、産業系の展示会ではなく、家具や雑貨・工芸品などの展示会を見学してマンネリ改善の参考にしようということになりました。
たまたまいったある展示会で、アクセサリーを展示しているブースがいくつかありました。一般的なアクセサリーの展示をしているブースもありましたが、紙や木・陶器のアクセサリーなど変わった素材で作ったアクセサリーを展示しているブースもありました。
そこで思い出されたのがあのステンレスの鏡面です。
鏡面にしたステンレスをジュエリーにすれば、新しい価値を提供できる製品になるのではないか・・・ということを初めて意識した瞬間でした。
ジュエリーの金属部分の鏡面をリサーチ
展示会から帰ってから、ネット検索や実際のショップでジュエリーの金属部分の鏡面をいろいろ見て回ったのですが、私たちのステンレス研磨品の鏡面とは大きな質の違いがあるということが分かってきました。
ジュエリーの金属部分の鏡面は、回りの物が映るほど磨かれているという点からは確かに鏡面になってます。しかし、私たちの”目”で見ると、材質は高価な金・銀・プラチナを使っているにもかかわらず、私たちのステンレス研磨品ほど鏡面に関しては美しいと感じないのです。
その違いは、「鏡面のみを目的とした研磨」と「鏡面のみでなく平面や曲面の形状精度まで追求した研磨」の違いから生じていると考えられました。
もちろん、すべてのジュエリー製品を確認出来るわけではないのですが、多くのジュエリー製品は宝石のカットやジュエリー自体のデザインほどには金属部分の鏡面仕上げには注意が払われておらず、平面や曲面の形状精度にまでコミットしたものはほとんどないのではないか、ということが推測されました。
金属の材質をリサーチ
次に調べたのが、どの金属を選定するかという点についてです。
初めはSUS304を選定するつもりだったのですが、ジュエリーで使われる金属を調べ本当にSUS304で良いのかどうかを検討しました。
- ジュエリー用の素材として王道の「金・銀・プラチナ」
- 低価格帯のアクセサリー用素材としてよく使われる「真鍮」「ステンレスSUS304」
- 金属アレルギー対応素材として最近注目されている「純チタン・サージカルステンレス」
これらがジュエリーでよく使われる金属であることが分かりました。
まず、真鍮は変色しやすく金属アレルギーの懸念がある材料ということが分かり、選択肢から外しました。
SUS304はキズや変色には強いのですが、人間の汗に溶けやすく金属アレルギーの懸念がある材料だということが分かり、残念ながら選択肢から外すことにしました。
次に、金・銀・プラチナも純金属ではなく銅やパラジウムなど金属アレルギーの懸念がある金属と混ぜ合わせて合金の状態で使うことが分かり、選択肢から外しました。
残ったのはチタンとサージカルステンレスです。
チタンはアクセサリーとしての使用の場合は金属アレルギーが起きないと考えて問題ないほど金属アレルギーを引き起こしにくい素材で、サージカルステンレスは汗に溶けにくく金属アレルギーが起きにくいようにSUS304を改良して新たに作られたSUS316Lという規格のステンレス素材である、ということが分かりました。
チタンやサージカルステンレスは、金属アレルギー対応という”人間の健康にとって価値がある”性質を持っています。これは、貴金属の”資産価値が高い”という従来の価値観とは異なる「現代的な新しい価値観」を提示できる素材であることを意味します。また、チタンやサージカルステンレスは貴金属合金よりも硬くてキズが付きにくく変色もしないので、貴金属合金よりも不変性が高い素材でもあります。それらの利点に”私たちの研磨技術による美しさ”を加えることが出来たら、貴金属ではない素材にもかかわらずジュエリーとして新たなポジションを獲得できるのではないかと考えました。
私たちがサージカルステンレスを使う理由
金・銀・プラチナは、それ自身に資産価値があり、金属自体の輝きの美しさがあることから、宝石なしでもジュエリー製品として成立して魅力的な製品が販売されています。
しかし、チタンやサージカルステンレスジュエリーは金属アレルギー対応でキズが付きにくいということだけが魅力として発信されていて、金属そのものの美しさを押し出した製品は探した範囲では見つかりませんでした。
それでもチタンに関してはプチプラ価格のアクセサリーではなく国内製作されたジュエリーとして販売されているものがありましたが、サージカルステンレスに関しては海外生産されたプチプラ価格のものがほとんどでした。わずかにあるジュエリーとして販売されているものは、金属そのものの美しさを発信するのではなく宝石をセットすることによってジュエリー製品として販売されている、というのが2018年当時の状況でした。
サージカルステンレスはチタンよりも明るい色味を持った金属で、私たちのナノレベルでフラットに研磨する研磨法「ナノフラ🄬加工」で研磨することで、プラチナ以上の美しい銀白色の輝きを放つようになります。
私たちのブランドでは、金属アレルギー対応であることやキズがつきにくいということに加えて、”金属そのものの美しさ”も貴金属に引けを取らない素材であることを十分に確認した上でサージカルステンレスを使うことにしました。
金属そのものの美しさを極限まで引き出す特別な研磨をフィーチャーした新しいコンセプトの国産ジュエリーとしてLunanoのジュエリーに一人でも多くの方が関心を持っていただけるよう発信を続けて参りますのでよろしくお願い申し上げます。