金属アレルギーに悩む人は年々増加しており、日本人の10人に1人が発症しているともいわれています。女性の発症者数は男性の4倍も多く、発症者の低年齢化も進んでいて問題となっています。
金属アレルギー増加の大きな原因として、以前よりもピアスを開ける人が多くなってきたことが挙げられています。ピアスは、抵抗力のある皮膚表面ではなく体の内面組織に金属が直接触れてしまうため、他のアクセサリーよりも金属アレルギーを引き起こしやすいと考えられるのです。
金属アレルギー発症者の増加に伴い、金属アレルギーに関する情報がたくさん発信されるようになってきました。しかし、歯科に関する金属アレルギーの情報とアクセサリーに関する金属アレルギーの情報が混同されてことも多く、一般消費者の誤解を招くようなケースが見受けられます。また、情報が多すぎて知るべき情報にたどり着くのが難しい状況にもなっています。
この記事では、アクセサリーに関する金属アレルギーの情報のみを、漏れなく簡潔にまとめました。
いろいろなサイトに散らばって説明されている個々の情報が、1つの記事に体系的に分かりやすくまとめられています。金属アレルギーに関する一般的な情報はもちろん、ピアスを購入する際の具体的な注意点やサージカルステンレスに関する見解の相違についてなど、他の記事ではあまり見られない切り口の情報も掲載しました。
少し長めの記事ですが、参考になりましたら幸いです。
金属アレルギーとは?
アクセサリーの着用による金属アレルギーとは、「金属が皮膚に直接接触したことによるアレルギー性の接触皮膚炎」のことです。金属に触れた部位に、かゆみや腫れ・赤み・ブツブツなどの炎症を伴った皮膚症状が現れます。
発症のタイミングは、金属に触れてからすぐの場合もあれば数日後の場合もあり、その人の体質や体調により異なります。また、いままで発症しなかった人でも急に発症する場合があります。
金属アレルギー発症の3ステップ
肌に触れた金属が汗で微量に溶けてイオン化
イオン化した金属が体のタンパク質と結びつき、体に本来無かった「金属+たんぱく質の複合体」に変化
この複合体を免疫システムがアレルゲンとして感知することによって金属アレルギーが発症
金属アレルギーになりやすい金属7種
金属そのものがアレルゲンではなく、汗に溶けた金属イオンがタンパク質と結合したものがアレルゲンとなることがポイントです。
- 汗に溶けてイオン化しやすい
- イオン化してタンパク質と結合したときにアレルゲンとして認識されやすい
これら2つの条件を満たす金属がアレルギーを引き起こしやすい金属で、20種類ほどが知られています。その内、アクセサリーによく使用される金属7種をアレルギーになりやすい順に並べると次のようになります。
- ニッケル
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金属アレルギーの3大原因金属の1つで、金属アレルギーを1番起こしやすい金属です。貴金属の割金や下地メッキの成分として多用されていましたが、いまでは割金やメッキとしての使用は別の金属に代用されるようになってきています。
- 貴金属の割金
- 下地メッキ
- サージカルステンレスの成分(含有量:12%)
- コバルト
-
金属アレルギーの3大原因金属の1つ。アクセサリーにはプラチナの割金や下地メッキの成分として使用されています。
- プラチナの割金
- 下地メッキ
- クロム
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ニッケル・コバルトと並び金属アレルギーの3大原因金属の1つ。光沢感のある銀白色をしているので低価格帯のアクセサリーの装飾メッキとして使われています。サージカルステンレスの成分でもあります。また、現在流通している革の80%がクロムなめしという工程で製造されており、革ベルトの時計や革手袋などでかゆみが出た場合、クロムによる金属アレルギーが原因の場合があります。
- 装飾メッキ
- サージカルステンレスの成分(含有量:18%)
- パラジウム
-
歯科用銀歯の成分として使用されていましたが、金属アレルギーの懸念があることから、EU(ヨーロッパ)では使用禁止の勧告が出されています。プラチナと同族金属でプラチナとの相性が良いので、プラチナの割金としての使用が有名です。
- プラチナの割金
- 18金やシルバーの割金
- プラチナロウの成分
- 亜鉛
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アクセサリーに非常によく使われる金属の1つです。真鍮(銅と亜鉛の合金)アクセサリーとして用いられるほか、ロウの成分としてほぼ全てのロウ材に含まれています。また、ニッケルフリーメッキ(銅-スズ-亜鉛メッキ)の成分でもあります。
- 真鍮の成分(含有量:35%)
- ロウ材の成分
- ニッケルフリーメッキの成分
- スズ
-
スズは錫器(スズ製の食器)としての使用が有名です。優しい風合いのある金属なので、アクセサリーの素材としても使用されています。純錫は手で変形できるほど柔らかいので、アクセサリーとして用いる場合は、少量の銀や銅などを混ぜて硬さや光沢などを調整して使用します。
- 錫アクセサリーの素材
- ニッケルフリーメッキの成分
- 銅
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亜鉛同様、アクセサリーに非常によく使われる金属です。イエローゴールドやピンクゴールド、スターリングシルバーの割金としての使用が有名です。真鍮の主成分でもあり、ほとんどのロウ材にも含有されています。
- 真鍮の主成分(含有量:65%)
- 貴金属の割金
- ロウ材の成分
- ニッケルフリーメッキの成分
金属アレルギーになりにくい金属
チタンとレアメタル4種
チタンはレアメタル(希少金属)の1種で、耐食性が非常に高く金属アレルギーになりにくい金属です。
歯科のインプラントや人工骨として体に埋め込まれた状態では金属アレルギーになる人も稀にいると報告されていますが、アクセサリーとしての使用の場合は、金属アレルギーになることはまず無いといっていい素材です。その理由は、チタンが空気中の酸素と結びついて表面に薄く強固な酸化膜バリアを形成し、汗程度で溶かされてイオンになることが無いからです。
チタンのアクセサリーで金属アレルギーが起こる場合、気づかないところにチタン以外の金属が含まれている可能性が考えられます。購入前に次の3点を確認すると安心です。
- ピアスの飾り部分の素材確認
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チタン以外の金属が使用されている可能性があるので製品説明欄の記載を確認。
- パーツ同士の接合方法の確認
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ロウ付け接合の場合、銅や亜鉛などの異種金属が混入している可能性あり。
製品ページにはロウ付けに関する記載がない場合が多いので問い合わせによる確認が必要。 - メッキがされていないかの確認
-
メッキありの場合、下地メッキの成分(銅・亜鉛・スズなど)で金属アレルギーになる場合があるので製品ページの記載を確認。
チタンよりも耐食性が高いレアメタルに、ジルコニウム・ニオブ・ハフニウム・タンタルという金属があります。酸化膜の強固なバリアで腐食を防ぐメカニズムもチタンと同じです。近年、結婚指輪の素材として注目されていますが、素材の価格が高く加工も難しいことから、日常使いのアクセサリーとしてはほとんど流通していません。
貴金属(ゴールド・シルバー・プラチナ)
貴金属とは、「化合物をつくりにくく希少性のある金属」のことで、ゴールド(Au)・シルバー(Ag)・プラチナ(Pt)・パラジウム(Pd)・ロジウム(Rh)・ルテニウム(Ru)・オスミウム(Os)・イリジウム(Ir)の8種類あります。化合物を作りにくいということは溶けてイオン化しにくいということでもあり、貴金属は金属アレルギーに非常になりくい素材です。
ゴールド・シルバー・プラチナの3種は、アクセサリーのメイン素材として用いられます。パラジウム・ルテニウム・イリジウムは割金として部分的に使用されます。ロジウムはメッキとして使用されます。オスミウムはアクセサリーの素材として用いられることはほとんどありません。
貴金属の種類 | アクセサリーとしての用途 |
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ゴールド・シルバー・プラチナ | アクセサリーのメイン素材 |
パラジウム・ルテニウム・イリジウム | 割金として部分的に使用 |
ロジウム | 仕上げメッキ |
オスミウム | ほとんど使われていない |
純金・純銀・純プラチナは、アクセサリーとして使用する場合は、金属アレルギーになることはまず無いといっていい素材です。しかしながら、純貴金属のアクセサリーはあまり流通しておりません。純度が高い貴金属はとても柔らかくてすぐに変形するため、アクセサリーとしての実用性がないためです。
この柔らかさを克服するため、銅・亜鉛・パラジウムなど他の金属を混ぜて合金として使用します。この混ぜ合わせる金属のことを割金(わりがね)といいます。割金があるために金属アレルギーのなりにくさがやや損なわれた状態になってしまいますが、硬さや発色の調整のためには割金は欠かすことのできない存在です。詳しくは「5-2. 貴金属の割金(わりがね)」をご参照ください。
SUS316L(サージカルステンレス)
ステンレスとは、「鉄を主成分とし、クロムを10.5%以上・炭素を1.2%以下含む錆びにくい合金」のことをいいます。鉄・クロム・炭素に加えて様々な金属を配合することによって、錆びにくさをより強化したり、錆びにくさ以外の性質を与えることができるようになります。いままでに開発されたステンレスの種類は200種類以上もあるといわれています。
クロム18%・ニッケル8%・鉄72%・その他2%の合金であるSUS304という規格のステンレス(18-8ステンレス)は、空気中や水道水では錆びにくく、最も広く使用されてるステンレスです。本来、クロムやニッケルは金属アレルギーの原因金属ですが、鉄と適切な割合で化合することでイオン化しにくくなるという性能を発現し、水がかかっても錆びにくい大変有用な合金になります。しかし、汗の成分である塩素イオンがあると錆びやすいという欠点があり、金属アレルギー対応素材として使用することはできませんでした。
SUS304のニッケルを12%に高め、モリブデンを2%添加したSUS316は、18-12ステンレスとも呼ばれ、塩素イオンに弱いという欠点を改良したステンレスです。このSUS316の炭素濃度を下げ(Low)たSUS316Lは、耐食性がさらに向上し、手術用のメスやハサミなどの医療用途にも使われるようになりました。
「医療用途でも使用されるほど安全なステンレス」=「サージカルステンレス」という素材名で、金属アレルギー対応の素材としてアクセサリーにも次第に使用されるようになりました。
サージカルステンレスは硬い合金なので加工が難しいというデメリットがある半面、キズが入りにくいというメリットがあります。錆びたり変色したりすることもほとんど無いので、長く大切に使いたいという用途に向いた素材です。また、銀白色の明るい色味があり、超鏡面にするとプラチナ以上に美しく輝きます。
サージカルステンレスのアクセサリーで金属アレルギーが出た場合も、チェックするポイントはチタンアクセサリーのチェックポイントと同様ですので、そちらを参照してください。
見落とされやすい3つのポイント
金属アレルギーが出にくい素材でできたアクセサリーにもかかわらず金属アレルギー症状が出てしまうことがあります。実は、現在流通している金属アレルギー対応アクセサリーには異種金属が混入しているものがほとんどだ、という現実があります。メッキがついているついてないということであればわかりやすいのですが、素材そのものや製造方法に起因してメッキ前にすでに異種金属が入っているということは、一般消費者の方には気が付きにくい点です。
そのような見落とされやすいポイントを3つにまとめました。
”ポストだけ”金属アレルギー対応
ピアスのポストとは、「ピアスホールに通す細い針状の部分」のことです。
”ポストだけ”金属アレルギー対応素材のピアスが、金属アレルギー対応ピアスとして販売されていることがあります。もちろん、ポストだけでも変更することで改善されるのは確かですが、耳たぶに触れる飾り部分やピアスキャッチも金属アレルギー対応素材に変更しなければ、金属アレルギーを引き起こす可能性は残ってしまいます。
貴金属の割金(わりがね)
貴金属のアクセサリーは金属アレルギーが起きにくいとされていますが、金属アレルギー症状が出てしまう方が一定程度いらっしゃいます。これは、貴金属が原因ではなく割金として混ぜられた他の金属が原因であることがほとんどだと考えられます。
純金・純銀・純プラチナは、そのまま使用すると柔らかすぎてアクセサリーの素材としては実用性が低いため、銅・亜鉛・パラジウムなど他の金属を混ぜて合金として使用します。この混ぜ合わせる金属のことを割金といいます。
- ゴールドの分類
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金の純度は24分率で表し、純金は24金またはK24と表記されます。日本では、99.9%以上の純度の金のことを純金と定めています。
金のアクセサリーとしてよく使われるのが18金・14金・10金です。18金は純度18/24=75%の金のことでK18とも表記されます。残り25%は銅・銀・パラジウムなどで、混ぜる金属によって色味・硬さなどを調整します。14金は純度10/24=58%の金のことでK14とも表記されます。10金は純度10/24=42%の金のことでK10とも表記されます。
品名 純度 割金の成分:割合 24K 99.9% 割金なし K18イエローゴールド 75% 銅・銀:25% K18ピンクゴールド 〃 銅・銀・パラジウム:25% K18ホワイトゴールド 〃 銀・パラジウム:25% K14イエローゴールド 58% 銅・銀:42% K14ピンクゴールド 〃 銅・銀・パラジウム:42% K14ホワイトゴールド 〃 銀・パラジウム:42% K10イエローゴールド 42% 銅・銀:48% K10ピンクゴールド 〃 銅・銀・パラジウム:48% K10ホワイトゴールド 〃 銀・パラジウム:48% - シルバーの分類
-
銀の純度は1000分率で表し、純銀はSV999またはAg999と表記されます。これは、純度99.9%以上の純銀であることを示しています。
アクセサリー用素材としては、純度92.5%のSV925が最も広く使用されています。残り7.5%の割金には、銅・亜鉛・ニッケル・コバルト・アルミニウムなどが用いられますが、割金に銅のみを使用したSV925をスターリングシルバーと呼んで区別します。スターリング(sterling)には「品質が優れた、一級品の」という意味があり、スターリングシルバーは銀合金の中でも特に品質が高いものとされています。
品名 純度 割金の成分:割合 SV999 99.9% 割金なし SV950 95% 銅・その他:5% SV925 92.5% 銅・その他:7.5% スターリングシルバー 〃 銅のみ:7.5% - プラチナの分類
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プラチナの純度も1000分率で表し、純度99.9%以上の純プラチナはPt999と表記されます。純プラチナは銀白色ではなくやや黒みがかった白色です。
アクセサリー用素材としては、純度95%のPt950と純度90%のPt900がよく使用されます。割金を配合し合金にすることで、落ち着きのある銀白色に変化します。
品名 純度 割金の成分:割合 Pt999 99.9% 割金なし Pt950 95% パラジウム・その他:5% Pt900 90% パラジウム・その他:10%
貴金属アクセサリーで金属アレルギーが出る場合は、チタンかサージカルステンレスのアクセサリーに変えるのが最も良い方法ですが、やはり貴金属アクセサリーを着けたいという方は、下記の方法を試してみてください。
- ゴールドのアクセサリー
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割金の銅で金属アレルギーが出ている可能が高いですが、ゴールドのアクセサリーから銅を排除することは困難です。そこで、22金のアクセサリーが一つの選択肢となります。24金よりも強度があるので比較的取り扱いやすく、18金よりも銅の含有量が少なくなるのでアレルギーが引き起こされにくくなると考えられます。
- シルバーのアクセサリー
-
やはり割金の銅が原因である可能性が高いです。シルバーの場合は、製法を工夫した純銀製のアクセサリーが一部で流通しています。また、ロジウムメッキ仕上げ品もメッキが剥がれない限りは金属アレルギーに対して有効です。
- プラチナのアクセサリー
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割金のパラジウムが原因である可能性が高いです。プラチナの場合も、製法を工夫した純プラチナのアクセサリーが一部で流通しています。また、割金にパラジウムを使用しないものも一部で入手可能ですのでご検討ください。
ロウ付けによる異種金属の混入
ピアス飾りとポストを接合するなど金属パーツ同士を接合する方法として、溶接とロウ付けという2つの方法があります。
溶接とは、「母材を高温で溶かして金属同士を接合する技術」のことです。母材同士を溶かして接合するので異種金属の混入が全くないというメリットがある反面、レーザー溶接機などの特殊な設備が必要で、パーツの中心部まで溶かしてしっかり接合することが技術的に難しいなどのデメリットがあります。
ロウ付けとは、「母材は溶かさずに熱で溶かしたロウを接着剤として金属同士を接合する技術」のことです。異種金属が混入するというデメリットがあるものの、特殊な設備が不要で低コストでしっかりと接合できるメリットがある技術です。
溶接 | ロウ付け | |
---|---|---|
異種金属の混入 | なし | あり |
接合強度 | 弱い | 強い |
特殊な製造設備 | 必要 | 不要 |
コスト | 高い | 低い |
ロウとは、「接合したい母材金属よりも低い温度で溶ける合金」のことで、アクセサリーの製作には、銀ロウ・金ロウ・プラチナロウが主に使われています。特に、銀ロウはシルバー同士の接合だけでなく、真鍮・サージカルステンレス・チタンのロウ付けにも使用されます。ロウは母材よりも低い温度で溶ける必要があるため、母材の割金よりも高い割合で、銅・亜鉛・パラジウムなどが配合されています。プラチナロウでは、プラチナが全く含まれていないものも良く使用されます。
品名 | 主成分 | その他の成分 |
---|---|---|
銀ロウ | 銀74% | 銅20%・亜鉛6% |
金ロウ | 金75% | 銀7.5%・銅9.5%:亜鉛8% |
プラチナロウ | 金53% | 銀32%・パラジウム15% |
オールチタンまたはオールサージカルステンレスとして販売されているピアスで金属アレルギー症状が出てしまった場合、ロウの成分が原因の可能性が考えられます。溶接かロウ付けかを見た目で判断することは難しいので注意が必要です。
- 店舗購入の場合
-
店舗に直接確認
- ネット購入の場合
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ロウ付けではなく溶接で製作しているピアスやリングについては、多くの場合、セールスポイントとしてそのことが商品ページなどに記載されています。記載が見当たらない場合は、購入前にお問い合わせページ等を利用して確認するようにすると安心です。
- 店舗やネットショップによっては、溶接のことをロウ付けの意味で使っている場合があるのでご注意ください。
- サージカルステンレスやチタンのアクセサリーで銀ロウ接合されたものは、金属の成分が全く異なってしまうので注意が必要です。
メッキについて
素材の表面に金属の薄膜をつけることを「メッキをする」といい、メッキをすることで付いた金属薄膜のことを「メッキ」といいます。
メッキをする方法には、液体中でメッキをする湿式メッキと真空中でメッキをする乾式メッキがあります。アクセサリーのメッキは、多くの場合、湿式メッキの1種である電気メッキが用いられますが、最近は、電気メッキよりも剝がれにくいIPメッキが使われることも増えてきています。
電気メッキとメッキの役割
電気メッキとは、「メッキ液(メッキとしてつけたい金属を含む溶液)の中に素材を入れて電流を流し、電気分解を起こして素材に金属薄膜をつけるメッキ法」のことです。
メッキは、素材を錆や変色などから保護し、美観を向上させるために行います。アクセサリーに用いられるメッキとして代表的なものは、金メッキとロジウムメッキです。
ゴールドの輝きをプラスしたい | 金メッキ |
シルバーの輝きをプラスしたい | ロジウムメッキ |
ロジウムは貴金属の一種で、硬度が高くてキズつきにくく変色や金属アレルギーが起きにくいことから、メッキの素材として非常に優れています。色は明るい銀白色で、シルバー・ホワイトゴールド・プラチナアクセサリーの仕上げメッキによく使われます。
ロジウムメッキは、ロジウムコーティングと表記される場合もあるほか、プラチナコーティング・プラチナ仕上げなどと表記されることもあります。これには、ロジウムが貴金属でありながら稀少な金属であるという一般的な認知度が低いため、プラチナと同じ白金属に属することを逆手にとって販売業者があえてプラチナの名称を利用したネーミングをつけ、その呼び方がいつの間にか定着したという経緯があります。
下地メッキと金属アレルギー
金やロジウムを素材に直接メッキすると、剥がれやすく光沢度も良くないので、別の金属でメッキをしてから仕上げに金やロジウムをメッキします。素材と仕上げメッキとの密着性向上・光沢度改善などの目的で行うメッキのことを下地メッキといいます。
この下地メッキにはニッケルを含むメッキが使われてきました。仕上げメッキの金やロジウムの膜厚は1µm以下と非常に薄いので、使用状況にもよりますが、数ヶ月~2年程度でしだいに剥がれてきます。そうすると下地メッキが露出し、ニッケルアレルギーの原因となるので注意が必要です。
この状況を改善するために、ニッケルフリーメッキという下地メッキが開発されました。これは、銅・スズ・亜鉛の3種の金属からなる合金めっきです。いまでは、低価格帯のアクセサリーでもニッケル含有メッキからニッケルフリーメッキへの置き換えが進んできています。
IP(イオンプレーティング)について
IPは乾式メッキの1種で、「真空中で金属をイオン化し、そのイオンに電圧をかけて、素材に高速で衝突させてメッキする方法」のことをいいます。プレーティングは英語でメッキのことです。
IPによるメッキは、電気メッキによるメッキよりも密着性や耐久性が大幅に高いので、金属アレルギーに対応したメッキとしてアクセサリー製品にも使用されるようになってきました。
IPは高速でイオンを衝突させますので、適切な下地処理をしないと、素材金属の成分がメッキ表面に露出してしまうことがあります。単純にIPをしただけの製品では必ずしも金属アレルギー防止に効果がないものもありますので、注意が必要です。
金属以外のポストについて
ピアス限定の話になりますが、金属アレルギー対策として、金属以外のポストを使用することも1つの方法です。金属以外のポストには、樹脂ポスト・セラミックポスト・ガラスポストがあります。
樹脂ポストは、金属アレルギーが出ないという点では優れていますが、もろく劣化しやすい素材ですので、次のようなデメリットがあり、長く大切に使いたいという用途には向かない素材です。
- 頻繁に曲がったり折れたりする。
- 初めは透明だが、次第に黄色っぽく変色する。
- 細かなキズがつきやすく、汚れを吸着したり雑菌が繁殖したりしやすい。
セラミックポストやガラスポストは、硬い素材でできているので十分な強度があり、表面がなめらかなので衛生面でも優れています。しかし、ピアス飾りとの接合が金属ポストほど簡単ではないこと、ピアス飾りの部分との素材の統一感が乏しいことなどから、金属ポストほどは採用されていないのが現状です。
サージカルステンレスに関する見解の違いについて
宝飾業界では、数あるステンレスの中でも特に耐食性が高いSUS316Lのことを、慣習的にサージカルステンレスと呼んでいます。
この呼び方は、宝飾業界で使われるようになった造語です。「サージカル=医療用途で使われる」という良いイメージで素材をPRするために使われ始めた言葉が定着したものであり、JIS規格(産業製品などに関する日本の国家規格)で正式に定義された規格名ではありません。
サージカルステンレスが金属アレルギーになりにくい素材であることは広く認められていますが、どれくらいなりにくいかについては、見解が大きく2つに分かれています。
なりにくさの順位 | 見解A | 見解B |
---|---|---|
1位 | チタン | チタン |
2位 | サージカルステンレス | 18金 |
3位 | 18金 | プラチナ900 |
4位 | プラチナ900 | スターリングシルバー |
5位 | スターリングシルバー | サージカルステンレス |
6位 | 14金 | 14金 |
7位 | 真鍮 | 真鍮 |
見解Aはサージカルステンレスの耐食性を高く評価してチタンの次に金属アレルギーが起きにくいとする考え方です。見解Bは高品位の貴金属合金の方がサージカルステンレスよりも金属アレルギーが起きにくいとする考え方です。
なぜこのような見解の相違があるのでしょうか。
サージカルステンレスはニッケルを含むから危険?
サージカルステンレスにはニッケルが約12%含まれています。金属アレルギーの一番の原因物質であるニッケルが高い割合で含まれているので、貴金属合金よりもアレルギーが起きやすいとする考え方があります。
確かにリスクが0でないことは確かですが、「リスクが0ではない=危険である」というのは少し飛躍した考え方のように思われます。18金・プラチナ900・シルバー925にも金属アレルギーになりやすい銅・亜鉛・パラジウムなどが割金やロウの成分として含まれています。リスクが0ではないとしてこれらも排除すると、チタン以外に使える素材がなくなってしまいます。
チタン以外の素材については、安全よりなのか危険よりなのか、素材同士を比較して相対的に判断する必要があります。
金属アレルギーになるには、原因金属が汗で溶ける必要があります。つまり、素材に含まれる原因金属が溶けやすい状態なのかそうでないのかがポイントです。
割金・ロウ材・下地メッキのニッケルは汗で溶け出しやすい状態で存在しているので、金属アレルギーの原因になります。一方、サージカルステンレスに含まれるニッケルは汗で溶け出しにくい状態で存在しているので、多くの場合、金属アレルギーになるほどの溶出が起きません。
EUではニッケルアレルギーを引き起こす可能性のある製品に対して、次のような規制が設けられています。
- 肌に長時間触れる製品は、汗によるニッケルの溶出量が0.5㎍/㎤/weekを超えてはならない
- 特に、体に挿入するピアス製品については、0.2㎍/㎤/weekを超えてはならない
ニッケルを含む製品がこの規制にパスするかどうかを判定するEN1811試験というものがあります。これは、対象製品を人工の汗に1週間浸し、溶け出すニッケルの量を計測するという試験です。メッキ加工やロウ付けをしていない100%サージカルステンレスでできた製品では、溶出量は0.2㎍/㎤/weekを遙かに下回る0.05㎍/㎤/week未満で、検出限界以下であることが分かっています。
これは、1週間つけっぱなしの状態で、ニッケルの溶出がほとんどない、溶けたとしても規制値を大幅に下回る量であることを意味しています。そして、18金・プラチナ900・シルバー925とは異なり、サージカルステンレスは銅・亜鉛・パラジウムを含まないので、これらの金属アレルギーになる心配がありません。
医療用とはいえ短時間しか触れないものにしか使われないから不安?
サージカルステンレスが使われる医療器具は、メス・ハサミ・注射針など使用時間が短いものがほとんどでなので、安全性に疑問を抱く方がいらっしゃいます。
これも比較の話で、人工骨などの身体に埋め込む用途にも使用可能なチタンと比較すれば、サージカルステンレスの方がリスクが高いのは確かです。しかし割金を含む貴金属合金と比較した場合は、前項で説明した理由によりサージカルステンレスの方が金属アレルギーになりにくいのではないかと考えられます。
サージカルステンレスについての当社の見解
チタン以外の金属では、金属アレルギーが起きる確率は0ではありません。
貴金属合金の割金は、汗で溶けやすい状態の合金として存在しているので、割金成分(銅・亜鉛・パラジウムなど)でアレルギーを引き起こすリスクのある素材です。
サージカルステンレスに含まれるニッケルは、汗で溶けにくい状態の合金として存在し、万が一溶けたとしてもその溶出量はEN1811試験の検出限界以下で、EUの規制値を大きく下回ります。したがって、多くの方にとってニッケルアレルギーになるリスクは小さいと考えられます。また、銅・亜鉛・パラジウムなどは含有しておらず、それらについての金属アレルギーリスクは0になります。
以上から、サージカルステンレスはチタンの次に金属アレルギーになりにくい素材である、というのが当社の見解です。
まとめ
- アクセサリーによる金属アレルギーとは、「アレルギー性の接触皮膚炎」のこと
-
- その原因は金属そのものではなく、汗により溶けた金属イオンと体のタンパク質が結びついてできたアレルゲン物質
- 金属アレルギーになりやすい7種の金属に注意
-
金属アレルギーの3大原因金属 : ニッケル・コバルト・クロム 割金・ロウ・メッキの成分 : パラジウム・亜鉛・スズ・銅 - サージカルステンレスとは、SUS316Lのこと
-
- それ以外の規格のステンレスがサージカルステンレスとして販売されている場合があるので注意
- サージカルステンレスに含まれるニッケルは非常に溶け出しにくい状態で存在し、EUのニッケル溶出試験EN1811の基準を検出限界以下でクリア
- 金属アレルギーの6段階評価
-
ならない : チタン 非常になりにくい : サージカルステンレス なりにくい : 18金・Pt900・スターリングシルバー
一部のIPメッキ品普通 : 14金・10金
ニッケルフリーメッキ品ややなりやすい : 真鍮 要注意 : 割金にニッケルを含むもの
メッキにニッケルを含むもの - 金属アレルギーを回避・予防するためのチェックポイント
-
- 少なくとも金属アレルギー対応素材を選択
- ”ポストだけ”ではなくピアス飾りの素材もチェック
- 18金やシルバーなどの貴金属合金は割金の成分をチェック
- パーツの接合が溶接かロウ付けかをチェック
- メッキがされている場合はメッキ方法とメッキの成分をチェック
金属アレルギー対応アクセサリーとして販売されている製品のほとんどにアレルギーを起こすリスクのある異種金属が入っているのですが、販売者側から正確にアナウンスされていないことがとても多いです。
自分に合ったアクセサリーを選択できるよう、購入者側が正しい知識を入手し、気を付けるようにするしかないのが現状です。